風雅な門をくぐり、つづら折りの長い石段を登っていくと、やがて長い段簾が掛けられた石屋根の第二の門に辿り着く。

千葉の柏に本店を置く「竹やぶ」は、手賀沼を一望する小高い丘の上にある。竹林の涼に抱かれたその不思議な空間は、どこか隠れ里の風情を漂わせ、訪れる人を清閑な世界へと誘っている。そこは、「竹やぶ」の主、阿部孝雄が辿ってきた蕎麦との対峙の場であり、人生の想い出が刻まれた、まさに手作りの"庵"である。フランスのオートリーブという村にあるシェバルの城をモチーフにしたという古瓦を葺き、割れた皿やビー玉を埋め込んだアプローチや店の内装にいたるまで意匠のおもしろさが感じられる。

日本各地の旨いそばを訪ね歩き、また世界を旅してきた主の心には、もはや料理にもその店造りにも国境は無く、飄然として世俗にこだわらない自由奔放な生き方の一端を垣間見ることができる。柘榴の木の下の引き戸を開くと、水琴の音がいつも静かに響くほの暗い土間へと導かれ、更に奥の引き戸を開けると、ようやく「竹やぶ」の蕎麦を供する場に辿り着く。

「竹やぶ」の主、阿部孝雄は二十歳の時、江戸そばの伝統を受け継ぐ三大暖簾の一つ「薮」の系統である「池之端藪蕎麦」で修業した。一年十ヶ月という短い修行期間ではあったが、ここで江戸そばのそば職人としての姿勢を学んだ。修業の後、千葉・柏の駅前にはじめて「竹やぶ」の暖簾を掲げたのは、昭和四十一年の冬、まだ二十二歳の時であった。ここから「竹やぶ」の蕎麦の歴史が刻まれていく、まさに原点であった。当時、皆無に等しかった手打ちそばの打ち方を学び、また、柚子切り、芥子切り、蓬そばをはじめ五百種類以上の変わりそばを創作し、ただひたすらにそば職人としての道を猛進してきた。

そして、自分が思い描いていた通りの、一縷の隙もない完璧なそばを打ち上げることができたと感じた或る日、従来のそば職人の域を超えた新しい領域を創造したいと思った。